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大阪地方裁判所堺支部 昭和54年(ワ)40号 判決

原告

岸田三良

右訴訟代理人

大上政義

被告

堺市

右代表者市長

我堂武夫

右訴訟代理人

河上泰廣

重宗次郎

上西裕久

矢島正孝

訴訟復代理人

三好邦幸

主文

一  被告は、原告に対し、九一万円及びこれに対する昭和五四年二月八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は一項に限り、他に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、五三〇万円及びこれに対する昭和五四年二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  1につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、堺市内に建築士事務所を有する二級建築士である。

2(一)  原告は、昭和五三年六月一〇日頃、水野熙樹及び野口亀一(以下「水野ら」という。)から、水野らが共同で同市新家町六二三番五外の土地上に建築する木造瓦葺二階建分譲住宅八戸につき、水野らの代理人として、同市宅地開発指導要綱五条一項所定の同市長との事前協議・同要綱二九条一項所定の同市長との覚書締結手続(以下「事前協議手続」という。)、建築基準法四二条一項五号所定の同市長に対する道路位置指定申請手続(以下「位置指定申請手続」という。)、同法六条一項所定の同市建築主事に対する確認申請手続(以下「確認申請手続」という。)から成る一連の事務処理をすることを受任した。

(二)  原告は、水野らとの間で、右委任事務に関する報酬につき、次のとおり約した。

(1) 事前協議手続   三〇万円

(2) 位置指定申請手続 二〇万円

(3) 確認申請手続   四〇万円

右各金員は、いずれも、同市建築主事の確認があり次第遅滞なく支払う。

(三)  原告は、水野らの代理人として、同年一一月一五日頃、同市長に対して事前協議の申出をし、同年一二月二一日頃同市長との間で全協議事項について協議が成立したので、同月二二日頃、同市長に対し、覚書の締結を求めた。

(四)  ところが、覚書締結の窓口となつている同市開発調整部開発調整課の職員である水谷勉らは、「原告が代理人として手続するものは、全て処理しないことになつている。」などといつて、原告の申出に全く応じようとせず、このため、原告が水野らから受任した一連の手続は、他の手続の前提手続である事前協議手続さえ未了のまま停止させられた。

3(一)  原告は、同五三年八月一〇日頃、株式会社愛和及び領木鉄工株式会社(以下「愛和ら」という。)から、愛和らが共同で同市浜寺石津町中一丁五四八番一、二外の土地上に建築する前同種住宅一二戸につき、愛和らの代理人として、前同様の事務処理をすることを受任した。

(二)  原告は、愛和らとの間で、右委任事務に関する報酬につき、次のとおり約した。

(1) 事前協議手続   三〇万円

(2) 位置指定申請手続 二〇万円

(3) 確認申請手続   六〇万円

(1)の金員は当該手続が完了し次第遅滞なく、(2)(3)の各金員は、いずれも、同市建築主事の確認があり次第遅滞なく支払う。

(三)  原告は、愛和らの代理人として、同市長との間で全協議事項につき協議を成立させ、覚書を締結した。

(四)  そこで、原告は、位置指定の手続を進行させてもらおうと、同年一二月二三日頃、窓口となつている同市開発調整部開発指導課に現地の検分と位置指定を求めたところ、同課の職員である桜井らは前記2(四)記載と同様のことをいつて、原告の申出に全く応じようとせず、原告が愛和らから受任した一連の手続は、他の手続の前提手続である事前協議手続を完了した段階で停止させられた。

4(一)原告は、同五三年一一月二一日頃、

(1) 株式会社成協工務店(以下「成協工務店」という。)から、同会社が同市深阪七三二番二外の土地上に建築する前同種住宅六戸及び同市伏尾一〇四番二外の土地上に建築する前同種建物七戸につき、

(2) 訴外株式会社ニッセイホーム(以下「ニッセイホーム」という。)から、同会社が同市深阪九七八番一、二外の土地上に建築する前同種建物四戸につき、いずれも、土地区画整理法七六条一項所定の大阪府知事に対する許可申請手続(以下「許可申請手続」という。)、事前協議手続、確認申請手続の一連の各手続を、成協工務店及びニッセイホーム(以下「成協工務店ら」という。)の代理人として事務処理することを受任した。

(二)  原告は、成協工務店らとの間で、右各委任事務に関する報酬につき、次のとおり各約した。

(1) 成協工務店との間では、

(イ) 許可申請手続 六五万円

(ロ) 事前協議手続 六〇万円

(ハ) 確認申請手続 六五万円

(2) ニッセイホームとの間では、

(イ) 許可申請手続 二〇万円

(ロ) 事前協議手続 三〇万円

(ハ) 確認申請手続 二〇万円

右各金員は、いずれも、同市建築主事の確認があり次第遅滞なく支払う。

(三)  原告は、同年一二月中頃から末頃までの間に、成協工務店らの代理人として、同市長に対して事前協議の申出をし、関係各課と協議した結果、同五四年一月九日頃、同市長との間で全協議事項につき協議が成立したので、同市長に対し、覚書の締結を求めた。

(四)  ところが、窓口となつている同市開発調整部開発調整課の職員である水谷勉らは前記2(四)記載と同様のことをいつて、原告の申出に全く応じようとせず、このため、原告が成協工務店らから受注した一連の手続は、いずれも他の手続の前提手続である事前協議手続さえ未了のまま停止させられた。

5  被告職員らの行為の違法性及び故意・過失

被告堺市開発調整部の各職員が、その職務を行うについて、前記2(四)・3(四)・4(四)各記載のとおり、原告の申出にかかる各手続の処理を全面的に停止した行為は、いずれも違法なものであり、右職員らの右各行為には故意、少なくとも過失があつた。

6  原告の損害

被告職員の前記の各違法行為により、原告は、以下の損害を被つた。

(一) 本件各手続の停止により、以後進展の見通しがつかなくなつたため、原告は、

(1) 同五四年一月二二日頃、水野らから前記2(一)・(二)記載の契約を解除され、得べかりし報酬合計金九〇万円

(2) 同月一〇日頃、愛和らから前記3(一)・(二)記載の契約を解除され、事前協議・手続に関する報酬を除くその余の得べかりし報酬合計金八〇万円

(3) 同月一八日頃、成協工務店らから前記4(一)・(二)の各契約を解除され、得べかりし報酬合計金二六〇万円

の各請求権を喪失し、合計四三〇万円の損害を被つた。

(二) 原告は、前記違法行為により建築士としての信用を著しく毀損された結果、従来の顧客を次々に失い、また新規の顧客の開拓が極めて困難な状況に追込まれ、甚大な精神的苦痛を受けている。これを慰謝するには金一〇〇万円が相当である。

7  よつて、原告は被告に対し、国家賠償法一条一項に基づき、前記損害合計金五三〇万円及びこれに対する不法行為の後である同五四年二月八日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、(一)・(二)は不知。(三)は認める。(四)は否認する。

3  同3の事実のうち、(一)・(二)は不知。(三)は認める。(四)は原告が位置指定を求めたことは認め、その余の点は否認する。

4  同4の事実のうち、(一)・(二)は不知。(三)は認める。(四)は否認する。

5  同5の事実は否認し、法律上の主張は争う。

6  同6の事実のうち、各契約が解除されたことは認める(ただし、解除時期は、同2の契約は同五四年一月二〇日付であり、同3の契約は同五三年一二月二二日付である)が、その余の点は否認する。なお、原告は、水野ら及びニッセイホームとの間の契約分につき、全報酬額を受領済みである。

7  同7の法律上の主張は争う。

三  被告の主張(被告職員らの対応の適法性)

1  互光商事株式会社関係の違反

原告は、昭和五二年一二月頃、互光商事株式会社(以下「互光商事」という。)の申請代理人として、互光商事が同市内に建築する分譲住宅につき同市建築主事の確認を得たが、工事完了後の現場検査で次のような違反行為が発見された。

(一) 建築基準法六条一項・五項、四三条一項、五三条一項違反

(二) 都市計画法二九条、五三条違反

(三) 堺市宅地開発指導要綱違反

2  グリーンハウジング株式会社関係の違反

原告は、昭和五三年一月二五日、グリーンハウジング株式会社の申請代理人として、建築確認申請をして確認を得たが、その際、別途申請によつて取得していた被告の「通路境界明示書」を四か所にわたつて改ざんしたうえ提出書類に添付して、右確認を受けるという重大な非違があつた。

3  右1・2の件については、原告は、建築に関する実務専門家として単に設計のみならず、監理も担当していたのであるから、建築主と同一視されるべき立場にあり、違法な結果を積極的に是正する責任を被告に対して負担していたにもかかわらず、度重なる被告からの指示を無視して、是正の努力すら示さなかつた。

4  右のような経過から、被告としては、原告に対し、引続き是正措置の履行を求めるとともに、原告を申請代理人としてなされた本件各申請の提出書類につき、過去におけるような非違の有無に関して、いわば自衛策として、現場調査をするなど、慎重な見直しあるいは審査を行なつていた。

そして、被告の右対応によつて本件各手続の完結がことさら遅延したことはなかつたのであるから、被告職員らの行為には何ら違法性は存しない。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張事実のうち、1は認め、3・4は否認する。

2  原告は、互光商事から確認申請手続の処理のみを受任した代理人にすぎず、原告に対して、都計法違反等について申請本人と同様の責任を追及するのは筋違いである。仮に、原告にも何らかの責任があるとしても、建築主が異なり、かつ建築場所も異にする本件各手続についてまでも、原告が代理人になつているからという理由だけで手続を全面的に停止してしまうことは、およそ適法な行政行為とはいえない。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一請求原因1(原告の地位)、2(三)・3(三)・4(三)の点(原告が各建築主の代理人として、被告との間で各手続を進めていたこと)及び6(原告の損害)のうち本件各契約が解除された点(時期は除く。)については、いずれも当事者間に争いがない。

第二〈証拠〉によれば、請求原因2(一)(二)・3(一)(二)・4(一)(二)(原告と各建築主との間の各委任契約及び報酬の定め)の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

第三被告職員の職務行為の違法性(請求原因2(四)・3(四)・4(四)・5及びこれらに関する被告の主張)について

一原告の従前の違反行為

被告の主張1の事実は当事者間に争いがなく、右事実並びに〈証拠〉によれば、次の各事実が認められ、〈る。〉

1  原告は、同五二年一二月頃、互光商事から、同会社が堺市土師町内に建築する木造瓦葺二階建長屋住宅につき、その代理人として建築確認申請手続等をする事務を受任し、その頃同市建築主事に対し、申請代理人・設計者・工事監理者をいずれも原告として確認申請をしたが、その際、故意に、現実に建築する予定の土地から約三〇〇メートル離れた全く別異の土地上に建築するかのように記載して申請をし、同月二八日その確認を得た(建築基準法六条違反)。しかも、建築された土地は実際は三〇〇平方メートル以上のもので、都市計画法二九条一項所定の知事の開発許可が必要とされる場合であるのに、これを免れるため、わざわざ各三〇〇平方メートル未満に分割して二個の申請書を提出した(同法二九条違反。その他同法五三条違反)。更に、現実に建てられた建物は、建築基準法四三条一項所定の接道義務に違反するほか、同法五三条一項所定の建蔽率に違反し、また、堺市宅地開発指導要綱にも違反するものであつた。建築士として自己関与の工事に法令等違反がないよう当然に十全の注意を払つてくれているものと原告を信じていた被告堺市は、建築工事がほぼ完了した同五三年一〇月頃、初めて右各違反行為に気付き、翌一一月から再三に亘り、原告と互光商事に対してその是正を求めてきた。

2  原告は、同五三年一月一二日、グリーンハウジング株式会社から、同会社が同市浜寺南町一丁六五番地の一の土地上に建築する前記1記載と同様の住宅につき、その代理人として建築確認申請手続等をする事務を受任し、同月二五日、同市建築主事に対し、申請代理人・設計者・工事監理者をいずれも原告とする建築確認申請書を提出したが、その際、原告が以前別途吉川嘉一郎から受任した同市同町一丁六五番地の三の土地に関する道路境界明示手続の件で、既に同五二年一一月八日付で被告堺市から交付を受けて所持していた公文書である道路境界明示書を、土地の所在地、道路名、方位につき四か所に亘つて改ざんし、この写を右確認申請書に流用添付して提出し、あたかも右確認申請土地に接する市道との境界明示を適正に受けたかのように作出したうえ、同五三年二月三日、建築確認通知を得た。被告堺市は、右工事途中の同年六月頃、右違反行為を発見した。

二被告職員の対応

〈証拠〉によると、次の事実が認められ、〈る。〉

1  水野らの件に関し、同五三年一二月二二日頃、事前協議が成立したことにより、原告事務所の従業員が、被告堺市開発調整部開発調整課に赴いて、同課職員水谷勉に対し覚書の締結を求めたところ、同人は、原告には前記各違反行為があるため、提出書類等について再度慎重に審査せねばならず、ことに互光商事の件につき未だに是正がなされておらず、右是正措置を講じない限り原告が代理人となつている本件手続はすぐには進められない旨回答し、事実上以後の手続の進行を停止する意向を示した。

その後も、原告事務所の従業員らが再三被告に対し、手続の進捗を申出たが効がなかつた。その間、被告職員らから後記2・3のとおり、同月二三日頃愛和らの件に関して、同五四年一月九日頃成協工務店らの件に関して、いずれも前同様の処置をとる旨の意向を示された。なお、同部に赴いた原告も、同月九日頃同部部長塩野益男及び同部監察室室長代理河井から、同月一三日頃には同部開発指導課課長から右同様の警告を受け、すでに同五三年一二月二二日付で作成済みの本件覚書の交付を受けられなかつた。そこで、原告は、早急処理を迫る水野らに被告側が手続を進めない旨伝えたところ、金利負担、事業遅延による損害を憂慮してこれ以上待てないと考えた水野は同五四年一月二〇日頃、原告を解任してその解任届を被告に提出した。そしてその後すぐに、水野が他の建築士を同道して同部開発調整課に赴くと、既に作成済みの右覚書が交付された。(なお、覚書作成日付の同五三年一二月二二日から原告が解任された同五四年一月二〇日頃までの間に、特に必要と認められる再審査あるいは現地調査が行なわれたというような事実もない。)

2  愛和らの件に関し、原告は、同五三年九月二五日、同部開発指導課に対し、現地の検分と位置指定を求め、その後同年一二月二三日頃、原告事務所の従業員が同課に赴いて、同課職員桜井に対し右手続の進捗方を申し出たところ、同人もまた、原告の代理申請によるものは手続を進行し難いと前記同様の回答をした。手続の迅速な進行を必要とする愛和らは、原告を強く督促していたがらちが明かず、焦燥していたところ、同五四年一月初め頃、原告が申請代理人となつていたのでは手続が進まない旨を他から伝え聞き、このままでは事業に支障を来すと考えて、同年同月一〇日頃、原告を解任してその解任届を被告に提出した。愛和らは、委任契約解除後他の建築士に委任したところ、同月一七日には位置指定工事完了検査がされ、その後、確認通知までの手続を完了した。

3  成協工務店らの件に関し、同五四年一月九日頃、事前協議が成立したことにより原告事務所の従業員岡本国男が前記水谷勉に覚書締結を求めたところ、同人は前記同様の回答をした。その後成協工務店らは、原告に対し手続の早期処理を求めたが、進展が見られないため、同月一八日、業をにやした成協工務店らの各代表者が右岡本を同道して同部開発指導課に赴いて、同課職員山下秀司に対し手続遅延の説明を求めたところ、右山下は、上司の指示のもとに、原告が代理人となつている申請では手続の促進はむつかしい、他の建築士の代理申請か本人申請の形式に改めれば促進される旨の回答をした。そこで、手続の迅速な進行を切望する右代表者は、その場で、右岡本に原告を解任する旨告げたうえ、岡本に解任届出用紙を用意させ、直ちに原告の解任届を作成して被告に提出した。成協工務店らは他の建築士に委任したところ、五日後の同月二三日に覚書が交付された。(なお、同月九日頃から同二三日頃までの間に、特に必要と認められる再審査あるいは現地調査が行なわれたような事実もない。)、

三違法性の判断

判旨普通地方公共団体たる被告が、宅地開発指導要綱を定めて開発行為について規制を行なう場合、開発者が要綱に従つて覚書の締結を求め、あるいは建基法上の道路位置指定の申請をした場合、被告としては当該申請審査に通常必要な相当期間内に処分しなければならないことは無論である。なお、その際、申請人あるいはその代理人に対し、勧告、説得、啓発活動等強制を伴わない形でのある程度の行政指導を行なうことは許容されるものと解すべきである。しかしながら、行政指導が適法であるためには、行政指導によつて実現しようとする社会的必要性が相手方の受ける事実上の不利益に明らかに優越することだけでなく、行政指導の方法が、これを相手方に受忍させても不正義、不公平に至らないような社会的妥当性を持つていなければならないと解すべきである。

これを本件について見るのに、前記一で認定したごとく、原告は本件各申請以前に、建築士としてあるまじき悪質な非違行為を犯したことが認められるため、被告としては、原告が代理人としてする申請手続について、慎重な審議をするだけでなく、行政指導として、原告に対して違反行為を任意に是正する旨勧告し、説得することは当然適法かつ妥当な措置というべきである。しかしながら、この限度を越えて、即ち、別件の違反行為を是正しないという理由のみをもつて、原告が代理人となつている申請手続の処理を一切停止する、ないしは、事実上これと同一視すべき処置をとるということは、全く無関係の第三者である申請人本人との関係で権利侵害を犯すものであることはもちろん、原告の正当な業務行為に対してもそこに不正・不当があると断定して審査拒否をしているに等しく、この点のみをもつてしても既に、原告の業務を違法に妨害するものとのそしりを免れず、到底許されないものといわねばならない。また、前記二で認定した事実によれば、次の①・②のとおり認められる。

①  被告の職員らが、本件各申請手続を、昭和五三年一二月二〇日頃から右各手続につき原告の解任届が提出されるまでの間、正当な理由なく停止し、かつ、いずれの手続についても進行させられない旨を原告やその委任者らに告げたりしたため、原告が解任されたことが認められ、右職員らの右各職務に関してした行為は違法というべきである。

②  被告の職員らは、右各行為をするに当たり、少なくとも、それが前記のような違法行為となるから差し控えるべきだ、との注意義務を怠つた過失があると認められる。従つて被告は原告に対し、国家賠償法一条一項により、後記損害を賠償する義務を負う。

第四原告の損害

一逸失利益

1  水野らの件に関し、〈証拠〉によると、水野らは、原告との契約を解除した直後、原告の経営する事務所に勤務する二級建築士丸本昭男にその後の手続を委任し、同五四年四月一八日頃確認通知を受けた後、原告との間で約したと同額の報酬金九〇万円全額を同人に支払つたことが認められる。そして、右認定の事実関係のもとでは、丸本が右受領金全額を原告に交付したであろうことは推認に難くなく、従つて、結局、原告は水野らの件については被害を被つていないものと認められる。

2  愛和ら及び成協工務店の件に関し、〈証拠〉によれば、原告は前記契約解除により、八〇万円及び一九〇万円の各損害を被つたことが認められる。

3  ニッセイホームの件に関し、〈証拠〉中には、前記契約解除により七〇万円の報酬を得られなかつたという供述部分があるが、右供述は〈証拠〉に照らしてたやすく措信できず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

二過失相殺

前記第三の一・二に認定したとおり、原告は、本件各申請前の案件につき、二度に亘つて建築士としてあるまじき悪質で重大な違法行為を犯し、このため、被告堺市から再三是正を求められながら、誠意をもつて責任ある対応をとらなかつたことから、被告職員の前記違法行為を惹起するに至つたもので、原告の落度が本件不法行為発生の重大な原因となつたことは明らかである。従つて、損害賠償額の算定に当たつてはこれを斟酌すべきであり、その割合は被告三割、原告七割と認めるのが相当である。

そこで、右割合により前記一の損害額について過失相殺すると、その損害額は八一万円となる。

三慰謝料

〈証拠〉によれば、原告は本件各解任を受けたことによつて当該関係顧客との取引を失つただけでなく、一般的に堺市内関係の業務が低調となり、取引先の開拓も思うにまかせぬ状態がつづき、被告の違法行為により相当の精神的苦痛を被つていることが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。従つて、被告は原告に対し、藉謝料を支払うべき義務がある。

そこで、その額についてみるのに、原告が右精神的損害を被るに至つたことについては、既にみたとおり原告自身に多大の責任があるのであり、これらの諸事情を勘案すると、慰謝料としては一〇万円を相当と認める。

第五結論

よつて、原告の本訴請求は、九一万円及びこれに対する不法行為後である昭和五四年二月八日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条・九二条本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(和田功 坂本倫城 佐藤公美)

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